皆さん、こんにちは。群馬県邑楽郡大泉町の行政書士事務所 行政書士オフィスかわしまです。
当事務所では、お金の貸し借りの際に用意すべき金銭消費貸借契約書、その他諸々の書類作成をサポートしております。お気軽にご相談下さい。

こちらの記事では、相続とお金の貸し借りで用意する借用書、金銭消費貸借契約書の関係について説明させて頂きます。親族間などでお金を貸し借りする際、「身内だから」という理由で口約束で済ませてしまうケースは非常に多く見られます。しかし、相続が発生した瞬間、その「貸し借り」は当事者だけの問題ではなくなり、遺族全員を巻き込む大きなトラブルの火種へと変貌します。相続の観点から見ると、お金の借用書、金銭消費貸借契約書を用意しておくことは、単に「お金を返してもらうため」という目的を超えた、非常に強力なメリットがいくつもあります。
相続において借用書が持つ「絶対的な役割」について
相続における借用書の利点は、大きく分けて以下の3点に集約されます。
- 税務署への証明(税務対策): 税務署から「実質的な『贈与(生前贈与)』」とみなされ、高額な贈与税や相続税が課されるのを防ぐ。
- 他の相続人への証明(紛争予防): 他の兄弟姉妹などから「遺産の使い込み」や「不公平な生前贈与」だと疑われるのを防ぎ、遺産分割協議をスムーズにする。
- 権利・義務の明確化(債権の承継): 貸し主(または借り主)が死亡した際、その貸し借りが「いくら残っていて、誰が引き継ぐべきか」を法的にハッキリさせる。
借用書は、単なる「約束のメモ」ではなく、「国家(税務署)」と「親族(他の相続人)」に対して、そのお金が「あげる意図のない、ただの貸し借りである」と物的に証明できる唯一の防壁と言えます。
作成する目的① 税務署に「贈与」とみなされるのを防ぐ(税務リスクの回避)
相続が発生すると、税務署は亡くなった人(被相続人)の過去数年間にわたる銀行口座の履歴を徹底的に調べます。その際、まとまった資金(例:数百万円〜数千万円)が、子供や孫の口座に移動しているのが見つかったとします。このとき、借用書がないと、税務署はほぼ確実にそれを「生前贈与」として扱います。
もし税務署に「貸し付け」ではなく「贈与」と認定されてしまうと、以下のような大損害が発生します。
- 高額な贈与税のバック課税: 贈与税は相続税よりも基礎控除が低く、税率が非常に高く設定されています。借用書がないために「年間110万円の基礎控除を超えた贈与」とみなされ、本来払う必要のなかった重い贈与税(およびペナルティとしての加算税・延滞税)が課されるリスクがあります。
- 生前贈与の持ち戻し(相続税の加算): 税法改正により、亡くなる前の一時期(2026年現在では段階的に最長7年間に延長中)に行われた生前贈与は、相続財産に組み戻して相続税を計算しなければなりません。貸したつもりの資金が「贈与」になれば、相続税の課税対象額が跳ね上がることになります。
●借用書があることでどう変わるか?
適切な借用書があれば、税務署に対して「これは返済義務のある『貸付金(債権)』であり、贈与ではありません」と正面から反論できます。貸付金であれば、貸し主が亡くなった時点での「残債(まだ返してもらっていない金額)」だけが相続財産(プラスの財産)としてカウントされるため、税務署に余計な言いがかりをつけられる筋合いがなくなります。
作成する目的② 「不公平だ!」という親族間の骨肉の争いを防ぐ(遺産分割の円滑化)
相続トラブルの多くは、「感情の対立」から生まれます。特に、特定の子供だけが親から大金を受け取っていた場合、他の兄弟姉妹の不満は爆発します。
例えば、父親が長男に住宅資金として1,000万円を「貸した」とします。しかし借用書を作らないまま父親が亡くなりました。次男は父親の通帳を見て、1,000万円が長男に流れていることを知ります。
- 次男の主張:「これは長男への生前贈与(特別受益)だ!兄貴はすでに1,000万円も貰っているんだから、残った遺産は全部俺がもらうべきだ!」
- 長男の主張:「違う、これは親父から借りただけだ。これから返すつもりだったんだ!」
このようなケースになった場合、長男がいくら口頭で「借りただけ」と主張しても、次男からすれば「使い込みを隠すための嘘」にしか見えません。結果として遺産分割協議は決裂し、家庭裁判所での調停や裁判に発展してしまいます。
●借用書があることでどう変わるか?
もしここに、父親と長男が交わした借用書があれば、話は一瞬で片付きます。
「これは贈与(もらったお金)ではなく、貸付金である」
という事実が客観的に証明されるため、次男も「特別受益だ」と無理な主張を続けることが難しくなります。長男としても、身に覚えのない「遺産の使い込み」という不名誉な疑いをかけられずに済み、精神的な平穏を保つことができます。
作成する利点③ 貸し主が死亡した際、「貸付債権」として正しく相続できる
お金を貸した側(親など)が亡くなった場合、その「お金を返してもらう権利(貸付債権)」は、相続財産(プラスの財産)として遺族に引き継がれます。残高の確定と遺産分割がスムーズになります。借用書があれば、「元金がいくらで、これまでにいくら返済され、現在いくらの残債があるのか」が明確になります。
例えば、1,000万円の貸付金のうち、すでに300万円が返済されていれば、残りの「700万円を返してもらう権利」が遺産となります。遺産分割協議において、
「じゃあ、この700万円の債権は次男が相続しよう。長男は今後、次男に対して毎月お金を返してね」
といった形で、具体的かつ公平に遺産を分けることが可能になります。
もし借用書がなければ、残高の計算すらできず、そもそも「本当に返す約束だったのか」の合意も取れないため、遺産分割のテーブルに載せることすらできなくなります。
作成する利点④ 借り主が死亡した際、「借入債務」として相続税を減らせる
逆に、お金を借りた側(子供など)が、貸し主(親)よりも先に亡くなってしまうケース、あるいは「子供が親からお金を借りていたが、子供自身が亡くなった」というケースもあるかもしれません。この場合、亡くなった子供の「お金を返す義務(借入債務)」は、マイナスの財産(債務)として、その子供の相続人(配偶者や孫など)に引き継がれます。
相続税の「債務控除」が使えます。相続税を計算する際、亡くなった人に借金(債務)があれば、プラスの財産からその借金額を差し引くことができます。これを「債務控除」といいます。課税対象額が減るため、結果として相続税を安く抑えることができます。
しかし、ここでも借用書がなければ、税務署は「身内間の確証のない借金」を債務として認めてくれません。「ただ親からお金をもらって、それを適当に言い訳しているだけではないか?」と疑われ、債務控除を拒否されてしまいます。確実な借用書があって初めて、国に対して「これは正当なマイナスの財産です」と主張し、合法的な節税効果を得ることができるのです。
相続の観点から「意味のある借用書」にするための重要条件について
せっかく借用書を作っても、中身がズサンであれば税務署や裁判所から「名目だけの形骸化した書類(偽装されたもの)」とみなされ、効果を発揮しません。相続において100%の効力を持たせるためには、以下の条件を必ず満たす必要があります。
- ① 必須項目を網羅する
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当然ですが、誰が誰に、いつ、いくら貸したのか、そして「いつ、どうやって返すのか(返済期日と返済方法)」が明記されていなければなりません。
- ② 「あるべき条件」を設定する(無利息・出世払いはNG)
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身内間だからといって、以下のような条件にすると「実質的な贈与」とみなされる原因になります。
- 利息: 法律上、無利息でも借用書自体は有効ですが、あまりに巨額な融資で無利息だと、「利息分を贈与された」とみなされることがあります。数パーセントでも良いので、現実的な金利を設定するのが安全です。
- 返済期日: 「出世払い」や「いつでもいい」はNGです。「令和〇年〇月〇日」や「毎月〇月末日までに〇万円」と明確に定めましょう。また、「借り主が80歳や90歳になるまで返済が続くような長期の分割払い」も、返済能力を超えているため、税務署から「返す見込みのない、名目だけの借金(=実質は贈与)」と一蹴されます。
- ③ 返済の「客観的な証拠(エビデンス)」を必ず残す
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ここが最も重要です。借用書を作るだけでは不十分です。
- 手渡しでの現金貸し借りは絶対に避ける: お金を渡すときは必ず銀行振り込みで行い、通帳に履歴を残します。
- 返済も必ず銀行振り込みで行う: 手渡しで「はい、今月の返済分ね」と現金をやり取りしていると、後から税務署や他の相続人に「本当に返していたのか?」と疑われたときに証明できません。毎月、借り主の口座から貸し主の口座へ定額が振り込まれているという「事実」こそが、借用書が本物であることの最大の裏付けになります。
- ④ できれば「公正証書」にしておく
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さらに万全を期すならば、公証役場で公証人に作成してもらう「金銭消費貸借契約公正証書」にしておくことを強くお勧めします。
公証人という公的な第三者が関与して作成された書類であるため、「後から偽造したのではないか」「親が認知症のときに無理やり書かせたのではないか」といった、他の相続人からの難癖を完全にシャットアウトすることができます。
当事務所では金銭消費貸借契約書、借用書の作成をサポートしております。お気軽にお問合せ下さい。

まとめ
身内間での金の貸し借りは、当事者が生きている間は「信頼関係」だけで成立しているように見えます。しかし、どちらか一方に死が訪れた瞬間、その貸し借りは「税法」と「民法(遺産分割)」という、極めてシビアで血の通わないリーガル(法的)な世界へと引きずり出されます。そして、お金の借用書を用意しておく利点は、単に金銭トラブルを防ぐというレベルにとどまりません。
- 残された家族が、税務署から不当な課税をされないように守るため
- 残された家族の間で、不信感や憎しみによる争い(争族)が起きないようにするため
これらを防ぐために、相続の観点から見た借用書の本当の価値であり、未来の家族への「思いやり」そのものだと言えるでしょう。お金の移動が発生する際は、どんなに気まずくても、必ず最初の一歩として精緻な借用書を交わしておくべきです。
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